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<ノベル>
●本部へGO!
平見が「マァマ! マァーマァーーー!!」と泣く子供をあやすのに苦労していると、現役綺羅星学園の学生であるコレット・アイロニーが声を掛ける。
「あの、あなた、どうかされましたの?」
「実は、迷子になった子がいるのでちょっと親の所まで案内して頂きたいのですが……」
平見がこう言うと、コレットはこう告げた。
「そう言えば、文化祭本部とか放送室へ行ってみるのも手だと思うわ。そこだと多分、」
それと同じタイミングで、ファレル・クロスもやってくる。
「やれやれ……こちらは息抜きに来たというのに、子守に巻き込まれるとは……。全く、ツイていないと言うしか有りませんね」
ファレルがこう言うと
「仕方ないことです。こればかりは、運が頼みですからね。それよりも、まずは、子供の親を捜さないと……」
平見がこう言うと、もう一人の青年が声を掛けてきた。
「舞音さん、久しぶり!」
声の主は那由多である。
「あ、那由多さん、お久しぶりです。えっと……武器は?」
「いつもの妖刀はね、危なくないように、でも、無くさないように『ぶれすれっと』にしてるの」と言って、ブレスレットを指さしながら、彼が言う。
「そうですか……」
平見がこう言うと、コレットが「急がないとお母さんを見つけられなくなるかもしれませんわ」と一同をせかすように言うと、平見が少年をおんぶして、急いで文化祭本部へと赴くこととなった。
コレットとファレルが子供をあやしつつ、文化祭実行委員会の生徒が子供に名前を聞いている。
「僕、名前なんて言うのかな?」
「北沢……エック、エック、ゆう、エックじ……」
「北沢裕次君ね。今いくつなのかな?」
「ヒック、ヒック、6才」
「今、お母さんを呼ぶからちょっと待っててね」と彼女はそう言い残して、校舎へと向かった。
その間、コレットとファレルに子供をあやすよう依頼された那由多と平見が懸命に子供をあやしている。
「大丈夫だよ、君のお母さん、見つけるから。お兄ちゃん達が見つけるからね」
那由多がこう言うと子供は嬉々とした表情を浮かべ始めた。
「そうですね。じきにお母さんが迎えに来ますからね」
平見がこう言って子供の頭を軽くなでてやる。
それから、数分後、「ピンポンパンポン」アナウンスを告げるチャイムと共に校内銃にアナウンスが流れる。
「迷子のお知らせを致します。迷子のお知らせを致します。緑色のパーカーにジーンズをはいた北沢裕次君のお母さん、北澤裕次君のお母さん、いらっしゃいましたら、文化祭本部までお越し下さい。
緑色のパーカーにジーンズをはいた北沢裕次君のお母さん、北沢裕次君のお母さん、いらっしゃいましたら、文化祭本部までお越し下さい」
「ピンポンパンポン」とアナウンスの終了を告げるチャイムが鳴ると共に、雑踏は元に戻り、辺りは喧噪に包まれていた。
「これで、後はお母さんが来るのを待つだけね」とコレットが言うと、子供は「うん!」と元気よく頷いた。
そして、裕次が少し落ち着いた後、ファレルが彼を肩車し、目印代わりにすることとなった。
●親も慌てるわけで……
話の時間軸を少々前に戻そう。子供とはぐれてしまった親も懸命に子供を捜していた。
「しまった、あの子を何処ではぐれさせたのかしら……。全く、もう……」と思いつつ親
は子供を捜していた。
そして、平見より先に来ていた清本橋三はのんびりと散策としゃれ込んでいた。
走りながら、あちこち見て不安そうな表情を浮かべる母親。
そのタイミングで、「ドンッ!」と何かにぶつかる音がした。
「いたたた、そこのあなた、一体何処を見ているの!」
ぶつかったついでに、軽く尻餅をつき、甲高く声を上げてしまう女性。
「おまえさんこそ、何処見てるんだ?」
黒の着流しにぼさぼさの髪の痩躯の男がぶっきらぼうに言いつつ、介抱する。
「いや、その、実は……」と言いながら、離れようとする女性に男が一言。
「待ちな。俺は、別に悪党じゃねぇから、手伝えることがあれば、手伝うぞ。
何があったか知らねぇがな……」と男が言う。
それに対して、彼女は「ええ、実は、うちの子が迷子になったみたいで……。もしよかったら、捜して頂けませんか?」
「あ、ああ、かまわないが……」と言った後、いきなり、男は手当たり次第に子供を見つけ、母親に「この子か?」と尋ねていた。
母親からの返答は「違います……」で、ちょっと迷惑そうな表情を浮かべていた。
それにもかかわらず、子供達を手当たり次第確認していく。
返答は「違います……」。
それがちょっとした騒ぎとなり、文化祭実行委員会の黒服部隊(と書いてエージェントと読みます)に追いかけ回されかけたりしたのは、ご愛敬と言ったところか。
「会いたかったよ、橋三くん」
「おまえ、何処の『むーびーすたー』だ?」
「いいえ、ムービースターではありません。この学園のものです」と言って、彼の腕をとっつかまれそうになるものの、母親が何とか事情を説明して事なきを得た。
それから、しばらくして「ピンポンパンポン」と校内放送の開始を告げるチャイムが鳴る。
「迷子のお知らせを致します。迷子のお知らせを致します。緑色のパーカーにジーンズをはいた北沢裕次君のお母さん、北澤裕次君のお母さん、いらっしゃいましたら、文化祭本部までお越し下さい。
緑色のパーカーにジーンズをはいた北沢裕次君のお母さん、北沢裕次君のお母さん、いらっしゃいましたら、文化祭本部までお越し下さい」と迷子を知らせる放送が流れた。
「あ、今、うちの子の名前が呼ばれた気がしたわ?」
女性が静かにこう言うと、「ん、如何した?」と橋三が彼女に尋ねると、彼女はこう答えた。
「今、うちの子が文化祭本部で預かっているって放送が流れてたんです」
「そうか……。であれば、そっちへ向かった方が良いかもしれねぇな」
そう言って、再び彼は、彼女を連れて、文化祭本部へと連れて行く事となった。
●漸くご対面
橋三が母親を連れてきているなんて言うことはつゆ知らずに、裕次は、コレット、ファレルと那由多、そして、舞音の4人によって、あまり怖がられないようにしつつ、子供をあやしていた。
「もうすぐ、お母さんが来るからねぇ〜」
「もうちょっとの辛抱だから、我慢しろよ」
コレットとファレルが子供を懸命にあやしている。平見はその近くで、親と思しき人が来るか、本部の辺りから見つめていた。
「お待たせ、よかったら『ふらいどぽてと』はどう?」
その間に那由多が、裕次のためにとフライドポテトを買ってきた。
「うん!」と元気に答える裕次に、微笑む那由多。
それから、しばらくして浪人風の男に付き添われた女性が文化祭本部にやってくるのに平見が気づく。
「あ、ひょっとしたら、お母さんかもしれませんね?」
彼がこう言うと、那由多やコレット、ファレル、そして、迷子の担当をしている文化祭実行委員の生徒がその様子を見る。
しばらくして、本部に一人の女性と浪人風の男がやってきた。
「すみません、北沢裕次の母ですが、息子は、裕次は……?」
「少々お待ち下さい」と受付の生徒がこう告げると、テントの中で「裕次君、お母さんが迎えに来たわよ〜」と少年を呼ぶ声がした。
そして、少年と共に彼の保護をしていた4人が姿を現す。
「裕次、何処行ってたの!?」
「ママ! ママが勝手にどこかに行っちゃうんだもん!!」
子供と親で違うことを言うが、まぁ、それもまたご愛敬と言うことになるだろう。
それでも、すぐに自分の親を、息子を愛情深く抱きしめるのは、やはり親子だからかもしれない。
「すみません、うちの子がご迷惑をお掛けしたみたいで……」と母親が言うと、ファレルが「いえ、大丈夫ですよ。裕次君、お母さんが来てくれて良かったですね」と言う。
「うん!」と元気よく答える裕次に対して、一瞬複雑そうな表情を浮かべた那由多。
「あなた、どうしたの?」とファレルが尋ねると、彼はこう尋ねた。
「……僕の母上も、会えたらああやって抱きしめてくれるのかな?」
「それはそうよ。あなたのお母さんも、あなたに会えば、そうしてくれると思うわ」
「うん」とタダ一言だけ言うと、那由多は舞音を見つめた。
「私も、彼女の言うとおりだと思います。子を大事にしない親が何処にいるのでしょう……。昨今の新聞の記事を見ていると、嘆かわしく思いますけど……」
舞音はこう言ったあと、裕次が「お兄ちゃん達、バイバイ! また、会おうね!!」と元気よく言い、母親は「ご迷惑お掛けして、申し訳ありませんでした。裕次も楽しんでたみたいで……」と申し訳なさそうな表情を浮かべながら、こう告げつつ、文化祭本部を離れていった。
「これで、一件落着ですね。皆さん、ありがとうございます」と舞音が言うと、コレットが彼らにこう尋ねた。
「皆さん、この学校にお見えになるのって初めてでしょ?」
「ええ」、「うん」、「ああ……」と3者3様の返事が返ってくる。
「でしたら、私が皆さんと一緒に学内へ案内しますわ」
「ああ、宜しく頼む」
馴れないことなのか、少々緊張した面持ちで、橋三が言う。
ファレルが「みんな何処に行きたいですか?」が行き先を尋ねると、「僕、ここに来るのは初めてだから、あなたに任せたいんだけど……」と那由多が言う。
それならばと言うことで、ファレルは話を切り出した。
「だったら、午後3時から大学の演劇サークルが劇をやるらしいんだ。よかったら見てみないか?」
「そうかぁ……。それも良いかもしれんな」と橋三が言うと、一同それに同意を示して、移動することと相成った。
●文化祭って色々です。
「ここが幼稚園。その先が小学部。結構広いでしょ。私たちの学校って」
コレットがパンフレット片手に、学園内を案内していく。
この辺りも、3人は興味津々な表情を浮かべている。
そして、ファレルは彼女に届かない思いにちょっと苛立ちつつも「それから、この学園は、大きいドーム球場数個分の広さがあります。だから、私たち学生が移動するとき、教室が離れている場合は自転車を使うことがよくあるんです」と補足説明をしていく。
最初に、5人が立ち寄ったのは幼稚園。ここでは、架空の通貨を用いてのお買い物が出来てたりする。父母会も屋台を出しており、こっちはちゃんと現実の流通しているお金でしか買い物できないようになっている。
要は、幼稚園でよくあるかもしれないイベント「お買い物ごっこ」といった案配の出し物がここでは繰り広げられているのだ。
例えば、幼稚園の教室での買い物のやりとりはこんな感じである。
「あ、僕、これ欲しいんだけど……」と那由多が牛乳パックから出来た玩具を指さしながら言う。
「いらっしゃいませ!
こちらは、20テアトルになります」と園児が元気よく言う。
「これで、いいのかな?」と10テアトル(円形の紙の両面の真ん中に10と、その下に、テアトルと書かれた単純なものであるが……)を2枚手渡す。
「20テアトルちょうどいただきます。こちら、おしなものになります。
ありがとうございました!」と園児が玩具を手渡した後で言うと、先生含めて「ありがとうございました」の合唱が聞こえてきた。
幼稚園で買い物ごっこを経験した一行は、そのまま小学部へと向かう。その途中、那由多は鶏の唐揚げが気になって仕方がなかったのか、それを買って、幸せそうに頬張っていた。
橋三は「武士は食わねど高楊枝よ」とちょっと我慢している。
しかし、やはり、食べ物の重力には負けてしまうのか、「ぐぅ〜〜〜」と腹の虫が鳴く。
「橋三さん、お腹空いてるんでしょ?」と那由多が言うと、「お前さんにはかなわねぇなぁ」と言いつつ、讃岐うどんを出している大学のサークルの模擬店に立ち寄っていた。
「これ、醤油を掛けて食べるのか?」
橋三は差し出された生醤油に驚きつつも、さっと掛け「ずるるるる」と一口。
「あぁ、美味い!!」
それ以降、無我夢中で食べ、器を返すときに一言。
「美味かったぞ」
その後、学生から「器の返却ありがとうございます。こちら、そのデポジット分になります」といくらかのお金が戻ってきた。
「なんで、お金が戻るんだ? 気味が悪い」
不思議そうな表情で橋三が言うと、学生はこう説明した。
「実は、環境を守るために器を使い捨て出来ないものにしたんです。これだと、ゴミを出す量が少なくなりますし、値段は少々張りますが、それでも、こう言うことで、自分も環境保護に貢献できることをアピールしたいんです」
「ほう、感心するな。まぁ、これは受け取っておくよ」
「ありがとうございます」
そう言って、橋三はそのお店から、コレット達がいるところへ戻った。
「おまえ、あそこのうどん屋で、『デポジット』と言うのがあったぞ?」
橋三がコレットやファレルに尋ねると、ファレルがこう答えた。
「今年、うちの文化祭では、環境について考えようと言うことで、大学の一部の模擬店や高校の模擬店、それから、父母会などで食べ物などの料金の値段に少し上乗せして、器を再利用するようにしたんです。お客さんから器を返して貰う時に、その分をお返しするって言う形になってるんです」
「そうか……、まぁ、そういうのもあるんだな」
その後、ファレルは先ほどの子供の世話のストレス発散もあるのか、射的屋によって、幾つかの景品を得ていく。
とは言っても、自身の能力を用いて、空気の分子を操って的を射ており、学生達から苦笑いした表情が浮かんでは消えていた。
「あれは、伝説の射的荒らし。なんて、なんて恐ろしい子!」とどこかの壁からちらりと覗いたホワイトシャドウ先生がいたとかいないとか……。
その後、中等部や高等部に立ち寄る。
高等部では、吹奏楽部の演奏に耳を傾ける一行。
さすが、映画産業の特区に指定されていることもあるし、映画の町でもあるのか、古今東西あらゆる映画のテーマ曲をつなげたメドレーなども演奏されていた。
曲が終わる度に、送られる拍手と喝采。高校生達は、それに対して、深々とお辞儀をしていた。
●お芝居の時間ですよ〜
そんなこんなで、時刻は2時半。
一行は、大学部の講堂にいた。と言うのも、コレット曰く「一番人気の演劇サークルの公演」が開場するからだそうだ。
「すごい列だね。舞音さん、こう言うの初めて?」
「ええ……。ここまでお芝居ですごい列は初めてです」
「そうだな、俺は久々だな」と橋三が言う。
「へぇ、そうなんですか。私も初めて見ますから、芝居なんて……」とファレルがいっているそばから、開場時間となり、開場を待ち焦がれた観客達は各々お気に入りの席を求めて、会場に入っていった。
芝居のパンフレットを見つつ、コレットは呟く。
「このお芝居、日本の近代を舞台にした物語ね。
ふぅん、日露戦争の頃を舞台にしてるんだぁ……」
日露戦争なんてものを知らない4人には、コレットが簡単に話を説明していく。
4人とも一応に頷きながら彼女の話を聞くが、歴史に追いつくのが精一杯である。
舞音でさえ、「え、そんな異国との戦争があったのですか?」という始末である。
そして、「ブーーーーーーーーーー」と開演を知らせるブザーが鳴る。
「さ、始まるわよ。楽しみましょうね」とコレットが言う。
そして、幕が上がる。
そこには、演壇が一つあるだけで、そこから青年が一人声を上げて主張を始めた。
「明治維新から三十余年、我ら、薩長土肥の多くの者がこの国の礎となり、我が大日本帝国を築きあげたのである!!」
そこから始まる演説にロック調の曲が重なり、激しさが増していく。
「今後も、我ら薩長土肥の人間が、他藩の人間以上に指導力を持ちて、さらにこの国を発展させるべきなのである!」
そして、どこからとも無く野次と怒号。
まさに今の国会そのものではないだろうかと言わんばかりである。
その役者の激しい演技にぐっと引き込まれるコレット達、芝居の時間は2時間近くあったのだが、それは、あっという間の時間となった。
そして、芝居が終わり、別れの時、それぞれ、別れを惜しむかのように去っていった。
思っているけど伝えられないファレルとそれに気づいているのか気づいていないのか分からないコレットのその後のことは、また、別の話……。
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クリエイターコメント | ご参加頂きありがとうございました。 まさか、本当に黒服を出すとは思いもしませんでした。 また、皆様の楽しいプレイングを頂き、こちらも楽しく描かせて頂きました。 ご参加頂いた皆さんありがとうございました。
また、何か縁がありましたら、宜しくお願い致します。 |
公開日時 | 2008-12-20(土) 22:50 |
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